《Before, it's too late.》
#01_キス以上、恋人未満:07



 また、視線が絡まる。

 昇降口のときとは違い、キイチ先輩とあたししかいないこの空間で、あたしを見ていたその視線は、あまりにも優しく、そして甘かった。

 そう思うのが自意識過剰だとしても、笑われてもいい。


「こんにゃろー。聞いてなかったな?」

「あ、えっ、と、あ――!」


 慌ててテーブルの上で手を動かしたら、グラスを倒しそうになる始末。

 咄嗟にキイチ先輩が腕を伸ばして、グラスが倒れるのを防いでくれた。


「っぶねー」

「――…っ、すみませ…」


 気にすんな、って、掴んだグラスをテーブルの真ん中に移動させる。


「あの、ホントごめんなさい、何の話でしたっけ…」


 ことごとく恥ずかしい。話は聞いてないし、グラスは倒しそうになるし。

 それでもキイチ先輩は、不機嫌な顔もせず、むしろ微かに笑いっぱなしのような気もする。


「逆恨みされないといいな、って話をしてたんだけど」

「逆うら…、あ、さっきの先輩たちですか?」

「そう。あいつら結構、しつこいからさ」

「はあ…」


 危機感ねーな、って、また笑われた。

 危なっかしい話をしている割には、キイチ先輩だって、ずっと笑ってる。


「だから、彼氏でもいれば、万が一嫌がらせされそうになっても、守ってくれるじゃん?」

「そういう、ものですか…」

「いや、そうだろ普通」


 彼氏、なんて。

 唐突にそんな話になって、ぎこちなく引き攣った笑みを浮かべてしまう。

 あたしはあなたに憧れてるんです、キイチ先輩。

 そう、言うには、あたしには勇気が足りない。



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