《Before, it's too late.》
#01_キス以上、恋人未満:06



 あたしが憧れてることなんか知るはずもないキイチ先輩は、「かーわい」なんて、ケラケラ笑って爆弾を投下したりする。


「ごめんな、急に、変なことに巻き込んで」

「そ、んなこと、」


 ぶぶぶぶん、と、首を振る。

 よく状況を理解していないあたしには、何が変なことで、どれがどうなっているのか、検討もついていない。


「あー…、ね、これから少し、時間ある?」

 説明とお礼させて、って。

 キイチ先輩は、大通り沿いの喫茶店を指差した。



 さっきの赤とピンクの傘の先輩たちは、入学してからずっとあんな調子で、実はキイチ先輩も少々辟易しているのだ、と、苦笑いして。


 苦笑いするとき、キイチ先輩は、腕時計を握りながら盤面を親指で擦る。

 さっきもそうだった。

 癖、なのかな。


 そう思えば秘密を見つけたようで嬉しくて、会話の隙間に、そっとキイチ先輩を観察した。

 手が大きくて、指が長い、とか。

 細く見えるのに、意外と肩幅が広い、とか。

 左顎の下に小さいホクロがある、とか。

 近くにいないと判らないことを、ひとつずつ、記憶する。

 だって、もうこんなこと、二度とない。

 キイチ先輩とお茶なんて、高校生活最大の想い出だ。


「――…よなあ。な、彼氏、いる?」

「…え、」


 ぼんやり、見とれすぎたかもしれない。

 疑問型の語尾だけがうっすら耳に残り、反射的に顔をあげれば、キイチ先輩と目があった。



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