《Before, it's too late.》 #01_キス以上、恋人未満:05 「何? あんた」 「ジロジロ見てんじゃないよ」 キイチ先輩を巡っていた、女の先輩たちに睨まれてしまい。 「あ、…えっと、」 こういうことに慣れていないあたしは、何て返事をしたらいいのかも判らず、焦って手にしていた白い折りたたみ傘を取り落とす始末。 「あの、ごめ、な――」 「――あぁ、ごめんごめん、ここにいたんだ?」 とりあえず謝罪を、と、ようやく搾り出した震える声に、探したよ、って台詞が被って。 いつの間にかキイチ先輩があたしの傍にいて、落とした折りたたみ傘を拾ってくれていた。 やっと今、名前を知ったばかりの、憧れの先輩が、あたしを探してた? まさか、そんな訳、 「ごめん、悪いけどちょっとだけ、話合わせてくれる?」 …あるはずがなかった。 耳元で小さく囁かれた欺きに無言で頷き、先輩遅いです、なんて、あたしも女優になりきって。 「キイチ、その子、何?」 臍を噛む赤い傘の先輩に、キイチ先輩はしれっと嘘をつく。 「一緒に帰る約束してたんだ。だから傘は大丈夫、って言ったろ」 得意気に、女の先輩たちに折りたたみ傘を掲げて見せ、帰ろう、と、傘を開き、あたしの背中に手を廻して歩き出す。 傘の後ろで、残された先輩たちが何か叫んでいたけれど、雨脚が強過ぎて、うまく聞き取れなかった。 「ありがとありがと。すげぇ助かったよー」 校門を出るなり、キイチ先輩は大きく息をついた。 あたしに傘を差し掛け、心の底から安堵したように、目を閉じて全身で息を吐いて苦笑い。 雨脚は強いのに、傘が小さいせいで自然と狭まる距離に、あたしひとりが戸惑っていた。 肩が微かに触れるたびに、ビクッ、とあたしが過剰に反応するから、キイチ先輩はおもしろがって、わざと距離を詰める。 雨粒は冷たいのに、あたしの頬は赤々と火照りっぱなしで、ちっとも冷めてくれない。 [*]prev | next[#] bookmark |