《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:19



 失敗。

 前も言われたことがあるその単語に、体温が下がる。

 あのときは、そう、


 ――…彼女のフリして、なんて、言わなきゃよかった


 理由までは判らなかった。

 ただ、失敗した、と。そう告げられただけで。


「し、失敗、って」

「ん?」

「何ですか!? 前にも言われました。あたし、ずっと気になってて――」

「――うん、だから、教えてあげるよ」


 下敷きになっていたクッションを抜き取られ、あたしの身体は水平に床に落ちた。

 同時に、あたしを四肢で囲むように覆い被さる、季一先輩。


「え!? ちょ、」

「佐織は、憧れと恋の区別がついてないみたいだったから」

「…え?」

「勘違いじゃ嫌だ、なんて、欲を出したのが失敗だったんだ」


 季一先輩の左手が、あたしの右頬を滑る。

 そこに気を取られていると、なんとなく合わせられていたブラウスの合わせが開かれるように、右手が泳いでいく。


「季…い、ち先、ぱ…っ」

「もっかい言っとく。俺は、佐織が好きだよ。…――多分、最初から」

「待っ…、あたしだって、」

「…あたしだって、何? 憧れてた、とは言われたことあるけど、好きだとは聞いたことないよ?」

「そ、……、ん…」

「だから佐織は区別が付いてない、って言ったの」


 そしてまた、あの泣きそうな笑顔を一瞬見せて、季一先輩は目を閉じた。



 ――ちゃんと自分の気持ちと季一先輩に、向き合いなよ


 いつか薫子に言われた、その台詞が頭を掠めたのと同時に、悲痛な声が、あたしの鼓膜を震わせる。


「こんなことになるなら、勘違いさせたままにしとけばよかったよ」









- 47 -



[*]prev | next[#]
bookmark



book_top
page total: 47


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.