《Before, it's too late.》 #03_男の子、女の子:18 「佐織はさ、…」 「はい?」 「…」 「…」 「…」 「…あの、季――」 「――や、なんでもない」 つむじの上で、ははっ、と、乾いた笑い声がしたけれど。 なんとなく、季一先輩は笑ってるんじゃなくて泣いてるような、気がした。 「やっぱ、アレかな。天罰だよな、ある意味」 自虐的な台詞の意図も掴めない。 ただなんとなく、季一先輩がいつもの先輩と違うような気がして―― 「カッコつけんな、ってか」 「え?」 「いっそのこと、嫌われたほうが諦めつくんかな」 ――怖い、と。 あたしを抱き締める腕が緩んで、そのまま手のひらが、背骨を伝い、肩甲骨をなぞり、肩を経て二の腕を包む。 いつもとは違う、季一先輩の動作すら、怖くて。 「ジタバタしたってどうにもなんないもんな。――人の気持ちなんて」 逃げたい、と思ったのと同時に、あたしの背中にはクッションがあたった。 海老反るような恰好のまま見上げた季一先輩の、表情が見えない。 違う、そうじゃない。 あたし、押し倒されて――。 「きっ、季一せん、ぱ、っ」 「好きだよ」 「――…え、」 「俺は。ちゃんと、佐織を好きだよ」 俺は、が若干強調されたその台詞は、ありきたりな言い方をすれば、あたしの耳を疑った。 季一先輩が、あたしを、好きだ、って、そう聞こえたような気が――。 「彼女のフリして、とか、カッコつけたこと言うんじゃなかったよなぁ。ホント失敗した」 [*]prev | next[#] bookmark |