《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:17



「…っ、あの、先ぱ、」


 季一先輩は、いつもの季一先輩とは別人のようだった。

 余裕のない素振りの季一先輩は初めてだ。こんな風に、無理矢理物事を進める人じゃない。


 舌が首筋をなぞった跡が、火照る。

 チクリ、小さく皮膚を食まれた痛みに、思わず身体を引いてしまった。


「痛――ッ!」


 季一先輩だってやっぱり“男の子”なんだ、って。

 こんな形で、気付きたくはなかった。


 ただ、怖くて。

 拒否、抵抗、観念、受容。

 あたしが取るべきは、どんな態度なのか。何を言えばいいのか。

 答えなんか見つからない。だからあたしは、何もできずにただ、なされるがままで。


 食まれた鎖骨が、ドクドクと脈打つ。そこが跳ね過ぎて、何か飛び出してきそうで、手のひらできつく押さえた。

 息、苦しい。


 いっぱいいっぱいに伸ばして距離を取った腕は呆気なく絡め取られ、鎖骨を押さえた手も剥がされて、あたしは無防備になる。


「や、…あの、…」

「…焦ってんな、俺」


 ごめん、と、季一先輩の手に握られたあたしの腕が解放された。肌蹴たブラウスの前を合わせた季一先輩に、それを隠すようにして抱き締められる。

 くっついた胸と耳。

 季一先輩の鼓動が、速い。


「こういうことされると、嫌いになる?」

「…、」

「なるよな、普通」


 焦る、とか、嫌いになる、とか。

 待って、違うよ。そういう話じゃなくて。


「嫌いになられたら、どーすっかな俺。立ち直れっかな」

「そんな、」


 鎖骨に封じ込めたはずのドクドクが、行き場を失って身体中を駆け回る。

 あちこち痛いくらいに脈が跳ねて、喉がカラカラになって。



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