《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:16



 あたしは腕ごと抱き締められて、身動きひとつできなくて。

 ただ、耳元の熱っぽい吐息が聞こえないふりをした。



 身体ガ。

 鼓動ガ、痛イヨ。

 息ガ、苦シイ。

 助ケテ。



 蓋をした“不安”の正体が何なのか、あたしは知っている。

 気付いている。

 もう、判っている。


「佐織」

「…はい?」

「俺さ、…」

「…」

「…」

「季い…――ッ、ん、ン!?」


 “不安”を閉じ込めていた蓋は、無理矢理に閉めたものだから、当然ヒビが入って、あっという間に真ん中から割れる。

 どれだけ慎重にしていても、割れるときは一瞬だ。


 す、と、首筋から後頭部の髪を掬われたと思った瞬間、そこを支えられ、そして。


「――ん、ッ!」


 初めて、口の中に他人の舌を感じた。


「や、ッ先、ぱ…!」


 そして初めて、唇以外にキスを受けた。


 季一先輩の手が、あたしの身体を這う。

 唇が、首筋を辿る。

 まるで生き物のように、性急に、慎重に、優しく。

 でも今ここにいるのは、いつもとは違う“オトコ”の季一先輩で。


 とうとう蓋が割れて飛び出した“不安”を突き付けられて、あたしは軽くパニックになりかけた。

 鼓動が、耳を打つ。

 頭の中ではクエスチョンマークが犇めき合っているのに、身体はいうことを利かない。


 制服のスカートから引き出されそうなブラウスを制することすら、してはいけないような気がして。

 この場の空気に、流されなければいけないような、気がしていて。



 あたしが目を背け続けているのは“不安”なんかじゃなく、きっと、――現実。



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