《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:15



 ――え、何で?

 何で今、このタイミングで直人なの。


「なんだよ、まーだそんなこと言ってんの? 息抜きくらい俺だってしたいよ」

「や、あの、だって――」

「――逢いたい、と思ってたのは俺だけ?」


 突如浮かんだ直人の名前に心密かに狼狽していると、あたしの前髪をいじっていた指先が、耳朶に降りて、その輪郭をなぞり。

 その瞬間、空気が変わった。


 それはあたしにも判る。

 内臓に画ビョウをばら蒔かれたような、抗えない違和感。


「…あ、の」


 土日は予備校があるから逢えない。

 三年生はもう、午後は自習になっている。

 今日は金曜。昼休みに教室まで迎えに来てくれた季一先輩の姿を見た薫子に追い出されるようにして、あたしは午後の授業をサボった。おかげで、まだ外は明るい。


「逢いたかったよ、俺は」


 和菓子が好きな季一先輩が、あたしが好きだから、という理由で、ケーキ屋さんに寄ってくれた。

 あたしが見逃した映画のタイトルを、覚えていてくれた。


 逢いたい、と。

 逢いたかった、と。


 そう言って、抱き締めてくれるのに、あたしだって同じなのに。

 お腹の奥――胸の奥が、チリチリと痛い。


 はぁ、と、あたしの耳元で深く息をつく季一先輩が、少しだけ腕の力を強めた。

 同時に、蓋をしたはずの“不安”が、顔を覗かせる。


 ――なーんにもさせないなんて、彼女じゃないよねぇ


 どくり。どくり。

 いつか聞いた台詞が、ぐるぐる廻る。

 肋骨を打つように、心臓が跳ねる。



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