《Before, it's too late.》 #03_男の子、女の子:12 耳の下でふたつに結んだ、ゆるふわな髪を揺らして、教室の後ろのドアから顔を覗かせたのは、確か陸上部のマネージャーの子。 「あ、…」 あたしの顔を見て、明らかに一瞬、表情が曇った。 と同時に、直人が舌打ちをする。 「あの、ミ、ミーティング! 今日は部室じゃなくて、視聴覚室に変更、って、先生が――」 「――行こう」 直人とあたしを交互に見遣るマネージャーさんの肩に手を置き、きっぱりと告げられた、あたしを拒絶する、声。 あたしの話が途中だったことは、判っているはずなのに。 「え、でも、」 「いいんだ。もう時間だろ」 躊躇いながらも、じゃあ失礼します、と、直人の背中越し、あたしに会釈したマネージャーさんは、 「――…」 下げた頭を戻して直人の腕に絡まった顔に、うっすら笑みを浮かべていた。 瞬間、全てを悟る。 きっと、ううん間違いなく、あのマネージャーさんが、直人の彼女なんだ。 そして彼女が、あたしをよく思ってはいないことも。 普通に考えたら、あたしって存在は、直人を好きな子たちにしてみれば、不愉快以外の何者でもない。 こんなこと思うのは、おかしいって判ってるけど、でも。 直人があたしを蔑ろにしたのは、これが初めてだったから。 ゆるゆると底無し沼に落ちていくような、不快感が全身を包む。 胸の奥のほうが、ジリジリと焦げ付いて。 ああ、だめだ、なんか、ホントに泣きそう、あたし。 いったい、何にダメージを受けたんだろう。 直人の態度? 彼女の態度? それとも、もっと別の何か? オナカ、イタイ。 [*]prev | next[#] bookmark |