《Before, it's too late.》 #03_男の子、女の子:11 言いたい。 ちゃんと「ありがとう」って言いたい。 これまでだって、直人とケンカしたり、ぶつかったりしたことが、ない訳じゃない。 でも、いつだって折れるのは直人のほうだった。あたしが原因でも、直人が折れてくれていた。 多分、今、あたしから直人に話し掛けないと、もうずっとこのままになってしまいそうな気がする。 きっとこれは、最大のきっかけなんだ。 声をかけて、さっきのお礼を言って、そして――。 「――な、直人!」 結局、放課後まで何も言えなかった。 明日にしようかとも思ったけれど、違う。 今日でなくちゃ、いけない。 「…何、」 「あの、あ…、」 早く。 早く言わないと、直人はあたしなんか振り切って、すぐに部活に行ってしまう。 「…」 「…」 フルスピードで、脈拍が加速する。 なんなの。直人と話すのに、こんなに緊張するなんて。 「…あ、の、」 「うん?」 決して友好的な雰囲気ではないけれど、直人があたしの話を聞こうとしてくれている。 やだもう。泣きそう。 目の奥がジンジンする。 「さ、さっき、あの、…あり、ありがとう。あたし、ぼーっとしてて、それ――」 「――ああ、いいよ別に」 かぶるように発せられた直人の声は、やっとの思いで伝えたあたしの気持ちを、軽く一蹴した。 一刻も早くあたしから離れたい、とでもいうように。 「や、待って、それでね、あたし、あの――」 「――直人先パーイ」 謝りたいことがあって。 とは、言わせてもらえなかった。 [*]prev | next[#] bookmark |