《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:09



 ――あたしには、佐織に迷いがあるように見えてたんだよね


 すぐに直人を引き合いに出されるのは、今さらだ。いつものことだから、気にしない。

 とはいえ、何の迷いだと。

 あたしが何を迷っているというの。

 薫子の勘違いだよ、と、言いかけて、言葉を飲み込んだ。

 何を言っても、嘘っぽい気がして。


「…とりあえずさ、ちゃんと自分の気持ちと季一先輩に、向き合いなよ」


 お弁当箱に蓋をして、ハンカチで丁寧に包み直す薫子は、微かに沈んだ表情を頬に浮かべていた。


「…あたしだって、好きだったんだから」

「う、ん…、ありがとう」


 そうだったんだ、と、驚くこともできなかった。

 そんなの、薫子に興味がないみたいで、彼女の様子に気付けないあたしはまるで友だち甲斐がない。



 いや、実際、気が付いていなかったのだから、そんなのは詭弁だ。

 だから直人だって、怒ってるのかもしれない。

 現に、はっきり言われた。


 ――佐織ってさ、ホント俺に興味ねぇのな


 あのときの、目。

 あんなにいつも一緒にいて、今までもいろんなことで相談に乗ってもらったのに、逆に、直人が誰に告白されたとか、付き合うかどうか迷ってるとか、そんな話を一切されていない。

 …今回だけじゃない、な。

 ずっとそうだ。

 直人が誰かの告白を断ったらしい、というのは、大概周りの噂で知り、そしてからかうように直人に確認を取っていた。

 一度も、直人の口から恋愛話を持ち掛けられたことがない。


 男の子だからそういう話をあんまりしたがらないんだ、と、勝手に思っていたけど、信用されていないのだとしたら――?



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