《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:07



 キリリ。

 こんなときなのに、一言発するたびに、お腹が痛む。


 大丈夫。窓の外には、もう誰の姿も見えやしない。

 あたしの世界には、今、あたしと季一先輩だけ。


「…季一先輩、笑ってますね」

「気のせい気のせい」


 もうその声が確実に笑っている。

 勢い余って、一世一代の大告白みたいになってしまったのだし、そりゃ笑われても仕方ないけど、でも。


「もー、やだ、」


 恥ずかしい、と、続けようとしたとき。


「…やだ? 俺といるの」


 くい、と、両手で押して離れた胸元から見上げた、季一先輩の口角は笑ったままだったけれど、目が。


「そ、…うじゃなくて、」

「嘘。ごめん、ちょっと試したりして」

「…は?」

「だってさっきの、自意識過剰にならなくても、いい返事だ、って判るじゃん? あまりに話がデキすぎてるな、と思って」


 目が、不安に溺れていて。


「…いいんだよね? いい返事だ、って受け取っても」

「あ、はい、あの…、よろ、よろしく、お願いします」

「っしゃー! よかった! 最高緊張した!!」


 しどろもどろに応えると、両手で作った隙間は、呆気なく季一先輩に取り戻された。

 強く香るブルガリブルーは、あたしのもの。


 そうよ、だって、何も迷うことなんかない。

 あたしはもう“フリ”の彼女じゃない。


 窪田季一の彼女、だ。







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