《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:06



「あ、あの、あたし、入学してから、ずっと季一先輩に憧れてたんです」


 …違ウ。

 ――何が?
 違う、って何?


 あたしの中のあたしが一人問答を始めると、キリリとお腹の痛みが強くなった――ような気がした。


「…――は? え、」

「先輩の傍にいられるなら“彼女のフリ”でもいい、と、思ってました」

「ちょ、あの、…佐織?」


 そう、違う。違うんだから。

 あたしはずっと、入学してから季一先輩を見てた。

 偶然が重なって知り合っただけなのに、なんであたしを、って、不思議だったけど。


「夏祭り、すごく嬉しかったんです。…昼休みも放課後も、中庭に誘ってもらうの、ホントは毎日毎日待ってて。あたし、受験の邪魔しちゃいけないと思ってたから、…こないだの、デ、デートだって、すごくすごーく舞い上がっちゃって、」


 例えば、もしも、“彼女のフリ”こそが季一先輩の“フリ”で、その“フリ”をやめることによって、“彼女のフリ”をやめられるのなら。


「だから、あたし、」


 ああ、どうしよう。

 暴走し始めたあたしの中の何かが、止まらない。


「き、季一先、ぱ――」

「――ちょ、ちょっ、と、待って」


 苦笑いの季一先輩は、椅子の背もたれを掴んでいた手をあたしの背中に廻し、その腕に力を込めた。

 前のめりに先輩の胸に激突したあたしの頭は逆の手で抱え込まれ、いつもより強く、ブルガリブルーが鼻孔をくすぐる。


「あのさ、告白してんのは、俺なんだけど」


 クスリ、と、明るい声が漏れ聞こえた。



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