《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:05



 季一先輩は、モテる。


 きっとそれは、少なからず先輩自身も自覚していると思う。

 あたしが季一先輩の隣を歩くようになってからも、ときどき放課後や昼休みに告白されたりしているのを、知らない訳じゃない。


 あの子よりも自分のほうが。

 季一先輩を想う女子生徒に、あたしがそう思われているであろうことは、想像に難くない。

 先輩の隙間を縫って、あたしに投げ付けられる、針のような視線。

 嫌がらせ、と言ってしまえばそうなることも、幾度となく、されていたりもする。

 それはつまり、それだけ季一先輩に、人気があることの顕れだ、と思って、遣り過ごしていた。



 そんな、季一先輩が、


「こないだの返事、訊いてもいいかな。…あー、や、急かすつもりじゃないんだけど、何ていうかこう、落ち着かなくてさ、手につくものもつかないというか、」


 あたしに、こんなことを言ってくれる。


 そわそわしたそぶりを隠そうともせず、だからこそ、自惚れてしまいそうになるくらいの気持ちが、真っ直ぐにあたしに向けられているのが判る。


 あの雨の日、昇降口に居合わせて、ほんの一瞬目が合っただけの、季一先輩とあたし。


「最初から、卒業まで、とか、言わなきゃよかったんだよな。カッコつけて“彼女のフリ”してほしい、なんて言うんじゃなかっ――」

「――あ、あた、し…っ、」


 ずっとずっと、夢見てたことが、現実になろうとしている。

 なのにこんなときでも、あたしの目には、校庭の片隅で汗を拭く直人の姿が、図書室の窓越しに飛び込んできた。


 オ、ナカ、ガ、イタ、イ…。



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