《Before, it's too late.》
#03_男の子、女の子:01






 ケータイ小説や少女マンガなんかだと。

 衝撃的な出来事のあとは、どうやって帰ったのか覚えてなくて、その夜は一睡もできず、おまけに翌朝泣き腫らした瞼でイヤイヤ登校して友だちに心配されたり――するのが、女の子にはつきもので。

 女の子というものは、マザーグースによれば、砂糖菓子とスパイスとなにやら素敵なものでできてるらしい。

 昨日は季一先輩の話を聞いても、しっかりした足取りで家に帰ったし、夕食も平らげてぐっすり寝たので、あたしはどうやら、そんなにロマンティックな成分では構成されていない。


 …もっとも、今朝学校に行きたくなかったのは、賛成する。




「だいたい、何で“ケータイ”ってカタカナなの? おかしくない?」

「…は?」

「ていうかさ、“写メ撮って”っておかしいよね。写メ、ってのは“写メール”の略でしょ」

「佐織、」

「写メールは“写真を添付したメール”のことなんだから、」

「ちょっと、」

「写真添付したメール撮って、って、何のこっちゃよね」

「さーおーり」

「だから――」

「――また矢野くんとケンカしたの?」

「…」


 薫子とは、中学で一緒になった。

 あたしに生理がきたあの瞬間を、実は薫子も見ていたのだと後でこっそり教えられた。


「…かわいそ、矢野くん」

「何それ」

「どうせ佐織が一方的に怒ってんでしょ?」

「…」

「それももう、大概にしとかないとね。矢野くん、ついに彼女作ったみたいだし」


 彼女に睨まれるよ、と。

 その言葉は、あたしをいろんな意味で焦らせた。


「え、何で直人に彼女できたって知っ――」

「は? 何言ってんのアンタ。一週間くらい前から毎日登下校べったりじゃん、彼女ちゃん」



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