《Before, it's too late.》 #02_フェイク:14 そう、だってこんな話をするまでに――あの雨の日から一年半も経っている。 季一先輩の新たな一面を知れるのは嬉しいけれど、来年の三月にはなかったことになる関係なのだから、想い出が増えてしまうのは、考えようによっては至極残酷だ。 どうして急に、と、問いたいような、それすら怖いような。 上の空になりかけたとき、その答えは、突然舞い降りた。 「…佐織と知り合って、どのくらいだっけ。確か去年の梅雨時期だから、」 ああ、ついにこの話題――。 指を折って月日を数える季一先輩は、何を言おうとしているのか。 震えそうになる脚を、膝に力を入れてごまかした。 「去年の六月の終わり頃です」 「一年と五ヶ月か」 案外長いな、と、栗善哉の栗を器用に箸でつまみ、頬張る。 この栗はどこの店より甘くて大きいんだよ、と、注文する前に言ってたっけ。 「今思えば、そっから失敗したんだよなぁ、俺」 「…失敗、ですか?」 ああいやだ、聞きたくない。 聞きたくない、ってことは、やっぱりあたしは心のどこかで“フリ”以上を望んでたんだ。 物判りのいい風を装っていながら、全然理解していなくて、――直人に言われたことを、こんなタイミングで思い出したりする。 「うん。…彼女のフリして、なんて、言わなきゃよかった」 …――ほら。 目の前が真っ白になる。 笑顔でそんなこと、さらっと言われるなんて。 「でさ、ものは相談だけど」 ものは相談。確か、あのときも季一先輩は、そう言った。 あたしは季一先輩の肩幅や、左顎の下にあるホクロを見てたんだっけ。 そしたら、…こんな風に、季一先輩の大きな手が、テーブルの上であたしの手に重なったんだ。 なんで。 なんでこんなにも、あのときと同じなの――。 [*]prev | next[#] bookmark |