《Before, it's too late.》
#02_フェイク:11



「最初、湯島に行きたい、って言われたとき、佐織は随分渋好みなんだなぁ、と思って驚いたよ」


 合格祈願の絵馬を奉納し、それに向かって手を合わせたままの季一先輩が、思い出したみたいにクスリと笑う。


「ごめんなさい、やっぱりひとりで来ればよかったかも」

「そんなことないよ。…俺の受験、気にしてくれてんだ、って思って嬉しかったし。それに、さ、」


 絵馬に何て書いたのか、季一先輩は教えてくれなかった。

 合格祈願、とか。

 ○○大合格、とか。

 テレビや雑誌でよく見かける絵馬のように、季一先輩も願を掛けたのだろうか。


「…、似合ってる」

「え?」

「制服じゃないスカート。思ったとおり、やっぱ可愛い」


 照れたように笑う季一先輩の瞳の真ん中、ぼんやり口をあけた、間の抜けたあたしが映っていて。


「こんなことなら、もっと早くたくさんデートしとくんだったなぁ」


 ドキドキする。

 そんなこと言われたら、あたし。


「あーあ。…失敗した」


 失敗…?

 あたし、何かいけなかっただろうか。

 ドキドキと不安がないまぜになって、思わず俯いてしまう。


 その後頭部に、ふわり、と、温かいものが触れた。


「え、あの、季い…」


 反射的に顔をあげたら、――ううん、あげようとしたら、目の前が真暗になって、温かいものは背中にも触れていて。


「ホント、失敗したと思ってんだ、俺」


 背中が、ぎゅうっ、と、締め付けられる。

 息をすると、ブルガリブルーが身体中を駆け巡る。

 どくん。どくん。

 押し付けられるように宛てられた頬に、強い鼓動が響いてくるから。

 とくとく。とくとく。

 あたしの早いのも、とうとう季一先輩に筒抜けたかもしれない。



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