《Before, it's too late.》
#02_フェイク:10



「顔、赤いね」

「いえ、あの、少し走って来たので、」

「なんだよ、女の子は待ち合わせ時間に遅れたって許されるんだぞ」


 そっと離された袖口を寂しく感じながら、緩まないスピードの胸元を握り込む。

 走ることなかったのに、と言われ、乗換駅を間違えたから、と、正直に暴露すれば。


「だから、家まで迎えに行く、って言ったのに」


 ――あ、笑った。

 乗り換えを間違えたからか、崩れそうなメイクのせいか。

 まさか季一先輩は、メイク崩れで笑ったりしないと思うけれど。

 どんな理由でも、季一先輩がちゃんと笑ったのを見たのは、いつ以来だろう。


「や、でも、待ち合わせのほうが、デートっぽいか」


 行こ? と、あたしの手を握る。

 デート、って。
 季一先輩、はっきり言った。

 鼓動がまた一割増し早くなったのが、繋いだ手からバレたりしないことを願って、季一先輩に並んで歩く。


「なんかさ、」


 ざわついた地下鉄構内から地上に出ると、空の青さに軽く目眩がした。


「いいよね。彼女と合格祈願とか」


 今日の季一先輩は、ちょっぴりいつもと違う。


 ――デートっぽい

 ――彼女と合格祈願とか


 どうして、急に。



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