《Before, it's too late.》 #02_フェイク:09 さらりと飛び出す甘言は、無意識なのだろうか、意図的なのだろうか。 おそらく、前者。 そんなこと、判ってる。 ――そういうところは、受験が終わったらね 受験が終わったら、何? 年が明けて、受験が終わったら、季一先輩は卒業してしまうのに。 卒業まで、と言ったのは、季一先輩のほうだ。 それでも。 うっすら期待している、バカなあたしがいるのも事実で。 季一先輩が卒業したら、あたしの居場所はどこになるんだろう。 乗り慣れない地下鉄は、いつもと違う空気に、少しだけ不安になる。 案の定、不安と緊張で、あたしは乗り換えを間違えた。 予定では、早めに着いて、駅のトイレかどこかで、メイクや服装の最終チェックをするはずだったのに、時間ギリギリに待ち合わせ駅に着いたために、それも叶わず。 季一先輩はもう着いていて、少し乱れているかもしれないメイクのあたしを、待っていてくれた。 服装、おかしくないかな。 今さら焦ってもどうにもならないのに、手の平に届く袖口を握り、そんなことを思う。 「俺の好きな色だ」 さっきまでドキドキしながら握っていた袖口を、季一先輩に持ち上げられた。 違う、先輩が好きなのは、色であって、あたしじゃない。 なのに勘違い承知で、わざわざあたしの心臓はスピードを上げる。 [*]prev | next[#] bookmark |