《Before, it's too late.》
#02_フェイク:08






「今月末の、土曜にしよっか」


 放課後の図書室。

 寒くなってきたから待ち合わせは室内にしよう、と、季一先輩に提案され、この頃は専ら図書室の一番奥にいる。

 この席は日当たりもよくて、ついウトウトしそうになるのが珠に傷だけど。


「都合悪い?」

「え?」

「制服以外でお出かけしよう、って言ったじゃん」


 他の週末は模試ばっかりでダメなんだよね、と、手帳をめくる指先。


 ホントに…?

 だって、あたしは。


「なんだ、忘れちゃったの?」

「いえ、そんな、」


 忘れる訳がない。

 慌てて首を左右に振ると、季一先輩は少しだけ目を細めた。


「じゃあさ、どこ行きたい?」


 佐織の行きたいところに行こう。

 そう言ってくれる、少しはにかんだような口元に、最近よく見る悲しそうな陰りは見当たらない。

 季一先輩のそんな顔、久しぶりに見たかも。


「…ホ、ントに?」

「ホントに」

「いいんですか?」

「いいんですよ」

「どこでも?」

「どこでも。…っあー、できれば電車で行けるとこね。沖縄とかハワイとかはナシ」


 さっき首を振って乱れた前髪に、季一先輩の指が伸びる。

 直してくれようとしてるその指先は、あたしの心臓のBPMを急浮上させてしまうのに。


「はは、な、んだ。北海道がよかったな」


 だから照れ隠しで、そんなことを言ってみたりもするけど。


「そういうところは、受験が終わったらね」



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