《Before, it's too late.》
#02_フェイク:06



 髪を撫でる手に吸い寄せられていくように、あたしは直人の腕に囲われる。


 教室の、ベランダなのに。 

 季一先輩じゃなくて、直人の腕の中なのに。

 誰かに、見られるかもしれないのに。


「自分の首、絞めるようなマネばっかして」


 腕の中で頭を抱え直されて、額が、直人の胸に押し付けられる。

 泣いていい、っていう、無言の合図。

 ありがとう、っていう代わりに、直人の胸に添えた手の指先に、力を篭めた。


 しがみついているようにも。

 距離が詰まらないようにしているみたいにも。

 どちらにも、見える。

 直人はどう思ったんだろう。

 どういうつもりだったんだろう。


 もし、こんなところを、季一先輩が見たら、どう思うんだろう。


「――…るんじゃなかったな」


 ぽつり、つむじに乗せた手の平の上で、呟いた声がした。


「…え、何?」

「や、こっちの話。…なぁ、同じこと訊くけど、」

「うん?」

「今日は、何で泣いてんの」


 やっぱり、今日の直人はいつもと違う。

 あたしが泣いてたって、理由までは訊いたりしないのに。


「…言わなくちゃダメ?」

「ダメじゃねぇけど、」


 あたしの頭を抱える腕が、二本になる。

 直人の胸にあるあたしの手にも、また力が加わる。


「…あんま、いい気はしない」



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