《Before, it's too late.》 #02_フェイク:01 あたしは、単純過ぎるのかもしれない。 “フリ”でも何でも、季一先輩の隣、っていうポジションにいられることが、嬉しくて、舞い上がっていて。 日毎に、“本物”じゃない、と認識していくのが、こんなに辛いとは思いもしなかった。 もし、あたしが“フリ”を辞めたら、他の誰かが季一先輩の隣に収まるかもしれない。 一度、季一先輩の隣を自分のものにしたら、それが例え“フリ”でも、手放すことが難しくなる。 なのに、あたしは逐一、猜疑心の塊で。 浴衣姿を褒められても。 またどこかへ行こう、と誘われても。 抱き締められても。 キスをされても。 飛び上がる程嬉しいのに、素直に両手を挙げて喜ぶことができなくて。 それでもあたしは、判りやすい程に、季一先輩しか見えなくなっていた。 あと半年もしたら。 季一先輩は高校を卒業。 あたしは季一先輩から卒業。 贅沢にも少しだけ近付けたから、こんなに悩むことになったんだ。 名前も知らないまま、遠くからこっそり見つめるだけだったあの頃のほうが、きっと胸の痛みは少ないのに。 [*]prev | next[#] bookmark |