《Before, it's too late.》 #01_キス以上、恋人未満:13 「…――何考えてんの?」 ふいに軽くなったつむじに、あたしは思わず、顔を上に向けた。 頭の上に乗せていた顎を外して、季一先輩は上体を少し反らし、覗き込むようにしてあたしを見ている。 また、泣きそうな笑顔で。 「夏祭り」 「え?」 「こないだの夏祭りのこと、思い出してました」 桜の枝が、風で揺れる。 どうして桜って、花が咲いてから葉が出るんだろう。 ほとんどの植物は、葉が育って、蕾がついて、それから花が咲くのに。 「放課後に制服、じゃなくて、外で待ち合わせして、っていうの、初めてだったから」 まさか、キスの理由を探してました、なんて言えない。 「そ? …っか、そういやそうだったかもなぁ」 あたしと季一先輩は“フリ”だから。 そういうことがあるほうが、おかしいもの。 「また、どっか行く?」 季一先輩の泣きそうな顔が、少しだけ解れた。 それも、予想外な言葉とともに。 「え? …っていうか、」 「迷惑?」 「や、あの、そういうんじゃなくて、だって、」 あたしと季一先輩は、そういう関係じゃないはずで。 これまでだって、一度もそんな話したことないのに、急に、どうして。 「可愛かったし。浴衣姿」 肩の上で切り揃えた髪が、季一先輩の指でさらさらと音を立てる。 首筋に触れそうで触れない指が、あたしの緊張をどんどん高めてしまう。 「こないだ、ちゃんと言えてなかったなぁ、と思って。せっかくリクエストに応えて、着て来てくれたのにさ」 「あ…、」 「それに、制服以外を浴衣しか見たことないなんて、おかしいだろ?」 [*]prev | next[#] bookmark |