《Before, it's too late.》
#01_キス以上、恋人未満:11



 少し先を歩く夏目先輩と里子先輩は、誰がどう見てもお似合いだ。

 手を繋いで、ときどきじゃれ合ったりして。

 もし、あたしが想いを告げたら、あんな風に季一先輩と歩くことができるのだろうか。


 チラチラと夏目先輩たちを盗み見ては、気取られないようにため息をつく。

 季一先輩が話し掛けてくれるのにさえ、上の空に相槌を打ってしまい。

 何度目かになるため息をこっそり吐き出し終わったタイミングで、季一先輩に顔を覗き込まれた。


「――どした?」


 そんなあたしの様子に季一先輩が気付かない訳がないのに。

 バカだな、あたし。迂闊すぎる。


「いえ、あ、あの…、は、鼻緒が、痛くて」

「あぁ、ごめん、歩くの早かったか」


 気もそぞろなため息なんて気付かないふりをして、季一先輩は白々しいあたしの嘘に、騙されてくれる。


「夏目ー、悪ぃ、ちょっと先に行ってて」


 夏目先輩の背中に声をかけて軽く手を挙げると、振り返った夏目先輩も、判った、と、片手を挙げた。

 もう片方を、里子先輩と繋げたまま。


 一緒に振り返って笑いかけてくれた里子先輩は、とても綺麗で。

 羨ましくて、鼻の奥が少しだけ、ツン、と痛んだ。


「ごめんな。昨日俺が、佐織の浴衣姿楽しみだ、とか言ったから」


 わざわざ着て来てくれたんだろ、って。

 季一先輩、何も悪いことしてないのに。


「履き慣れないもの履いたからですよ」

「あー、ココ赤くなっちゃってんなぁ。どうすっかな、…――あぁ、そうだ、もう少しだけ、歩ける?」


 この先に花火が見える場所があるから、と。

 ゆっくり、ゆっくり。

 たくさん追い抜かれながら歩いて行き着いたのは、屋台の並ぶ通りから一本外れた場所で。

 この階段を昇った先で花火がよく見えるのだ、と、また泣きそうな笑顔をした季一先輩が、教えてくれた。



- 11 -



[*]prev | next[#]
bookmark



book_top
page total: 47


Copyright(c)2007-2014 Yu Usui
All Rights Reserved.