《Before, it's too late.》
#01_キス以上、恋人未満:09



 彼女になって、という言い方は、されなかった。

 …そりゃそうだ。

 季一先輩はあたしの存在を、偶然に偶然が重なった結果、たまたま知ったにすぎない。


 ――俺の彼女、ってことにしとけばさ、あいつらだってなんもしねぇだろうし、もし何かされそうになっても、俺が楯になれるから


 多少なりとも巻き込んだ義務感、なのかもしれない。

 甘い感情は皆無だけど、それでも季一先輩があたしを気にかけてくれた、という事実が嬉しかった。


 利害は、一致していた。

 あたしは、憧れていた季一先輩と一緒にいられて。

 季一先輩は、あたしの存在によって、傘の先輩たちを遠慮なく遠ざけられる。


 卒業までの、期間限定。

 こんなにも苦しい想いをするなんて、最初から判ってたらよかったのに。








 あくまでも、あたしの役目は“彼女のフリ”なので、必要以上に接点を持つことはしなかった。

 持たないように、気をつけていた。

 電話もメールも、あたしからしたことがあっただろうか。


 ときどき、学校中に見せ付けるように、昼休みを一緒に中庭で過ごしたり、放課後を共にしたり。

 そんなふうにして、あの雨の日から一年以上、あたしは“季一先輩の彼女”を演じてきた。



 夏休みだって、特に約束したり、連絡したりはしなかった。

 去年も、今年も、そのスタンスは変わらない。

 今年は特に去年と違って、季一先輩は大学受験を控えているから、夏期講習やら予備校やらで毎日忙しい。


 そこを邪魔してまで逢えるようなポジションに、あたしは、いない。



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