《Love Songs》
#07_クリスマス・ラブ U:1



 ――幻覚でもいいから、逢いてぇ…



 亡くなった人には勝てない。

 勝ち負けの問題ではないのかもしれないけれど、想い出は、浄化されていくばかりだから。



 あたしは、彼女さんを超える存在に、なれるだろうか。








 あの日、思い切って告白して玉砕して。

 諦め切れずに、ぐずぐずと気持ちを引きずったまま、今日になった。

 できることなら、イヴを彼と過ごしてみたかったけれど、それは叶わぬ夢と散り、でもまだどこか、燻っている想いを捨てられない。


 真っ直ぐ帰ったって、ひとりの部屋では誰も出迎えてくれるはずもなく。

 いそいそと家路を急ぐ同僚に手を振りながら、なんとなく彼のいるフロアでエレベーターを降りて、どこまでも往生際の悪い自分に驚いた。


 予定がある、と、彼は即答した。

 なのに、そこにはいるはずのない彼がいて。


 その背中は、端から見たら仕事に集中しているように見えなくもないけれど、心此処に在らず、だ。


 あたしには判る。

 ずっと、見てきたんだもの。



 偶然耳にしてしまった屋上での内緒話が、胸の奥から刺を撒き散らす。

 きっと、あれはあたしが知ってはいけない話だった。まして立ち聞きなんて。


 その罪咎を懺悔するのに、聖なる今日は相応しい。


 勝手にそう決め付けて、話し掛けるきっかけのために、コーヒーを淹れる。

 そうでもしないと、あたしは彼に話し掛ける勇気すら、持てないのだ。




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