《Love Songs》
#05_スローバラード:3



「ごめ…」

「悪いと思ってんなら、食ったら帰るぞ」

「やだ」

「やだ、じゃねぇよ。おばさん電話口で泣いてたぞ」

「…」


 また、黙る。

 だけど、何があったのか、訊けるような雰囲気ではなくて。


「ドライブ、しようよ」

「はぁ!?」

「ね、行こ? 市営グラウンドから見える夜景が綺麗なんだって」


 言い終わらないうちに、席を立つ。


「ちょ、待てお前――」


 慌てて伝票を掴んで後を追う俺は、援交相手に逃げられないように必死になってる姿にしか見えないかもしれない。




 唐突過ぎるこいつの行動に、振り回されるのはいつものことだ。

 それを振り切れない、俺も俺だけど。


「ね、もしかして、助手席って彼女専用だったりする?」

「今さら何だよ。そんな甘ったるいこと、俺が考えるように見えるか?」

「見えない」

「だろ? 余計なこと考えなくていいんだよ」


 ドアを開けて助手席に押し込もうとすると、足を踏ん張って車体に手を付いた。


「…今度は何」

「後ろに乗る」

「好きにしろ」


 さっきまで、平気な顔して助手席にいたくせに。

 女子高生の考えることは、不可思議だ。


「――で、市営グラウンドだっけ?」

「うん」


 バックミラーからときどき様子を伺うけれど、窓枠に頬杖をついて車窓を眺める横顔は、普段と変わらない。


「お前さ、」

「んー?」

「…や、何でも。コンビニ寄るぞ」


 間が持たない、と、思ったのは、何故だろう。




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