《Love Songs》
#05_スローバラード:2



「…ほら。おばさん心配してんじゃん」


 かけ直すために通話ボタンを押すと、ワンコールも鳴らないうちに、おばさんの焦った声が聞こえた。


「…うん、よく判んないけど、とにかく一緒だから安心して。ちゃんと送り届けるか――」

「――あたし帰らないよ」


 話の途中で呟かれたその言葉は、確かに俺の言葉を遮った。

 けれど、それはおばさんに向けたものでも俺に向けたものでもなく、強いていうなら自分自身に言い聞かせているようだった。


「あのなぁ」

「やだ。帰るのやだ…」


 単に叱られた、というのとは違いそうだ。

 もしかしたら、おばさんとケンカしたとか、そういうのではないのかもしれない。

 小さい頃から見てきてんだから、そのくらいは判る。


 携帯を胸ポケットに戻し、軽く出そうになったため息を飲み込んで、イグニションのキーを回した。


「メシでも食ってくか」





 ファミレスで食事をしている間、俺たちは一言も発しなかった。

 だけどそれは、居心地の悪い空間ではなく、むしろ空気のように存在する、長年慣れ親しんだ当たり前の感覚だった。


「援交してるみてぇだな」


 失笑とともに、さっき飲み込んだため息を吐き出す。


「…え?」

「こんな時間でさ、お前制服だし。女子高生連れたサラリーマンが、これから悪さするようにしか見えねぇだろ」


 誰も親切に、あのふたりは幼なじみかもしれない、なんて、思っちゃくれまい。

 世の中なんてそんなもんだ。




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