《Love Songs》
#02_クリスマス・ラブ:1



「悪い。クリスマスは予定があるんだ」


 意を決して誘ってくれたのであろうことは、今にも泣き出しそうな目を見れば容易に判る。

 だからといって、おいそれと申し出を受ける訳にもいかず。


「そう…ですか。やっぱり、彼女、いるんですね」


 クリスマスに予定がある、イコール、相手がいる。

 そんな図式が、世間の一般常識として成り立っているのだろうか。

 問いには答えず、曖昧に口角を引き攣らせると、淡いピンクのコートを纏った泣き出しそうな目は、一粒、足元を濡らして去って行った。



 泣きたいのは、こっちのほうだ。






 きっと君は来ない、と歌う、超定番のクリスマスソングが、ぽっかり空いた心に積もっていく。


 そう、来ない。

 どれだけ待っても、いつまで待っても、君は来ない。

 絶対に、来るはずがない。


 クリスマスを、恋人同士が過ごすイベントに仕立て上げたのは、一体誰なんだろう。

 そいつを目の前に呼び出して正座でもさせて、厭味のひとつも言ってやりたい。


 イルミネーションを見上げても、店先のオブジェに想いを馳せても、ひとりでは心が逸ることはなくて。

 幸福いっぱいの空気を漂わせながら、睦まじく寄り添う恋人たちを見せ付けられて、日に日に気持ちはブルーになる。

 これから先、あの頃のように穏やかで、甘いクリスマスを過ごせる日がくるのだろうか。

 とてもじゃないが、そんな未来は想像できないし、したくもない。

 クリスマスだけでなく、人生そのものがグレーに彩られて、浮足立った街並が滑稽にすら見える。








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