《桜、咲く》 #04_嵐の前の:05 「和紀くん、きっと学校でたくさんもらうと思って、…絶対食べてもらえるように、ケーキにしたの」 何、その可愛い発想。 ヤベぇ。 「だから、あたしがお会計したかったんだもん」 うわ、マジでヤベぇって。 「…俺、柄にもなく胸いっぱいなんですけど」 鈴が、だよ? さっきのケーキは、バレンタインチョコの代わりだと。 初めてのデートで俺があげたネックレスと同じ青い石が付いたピアスを、バレンタインデーの今日、はっきりそう書かれたリボンに包んでくれた。 ここまでされて、俺がしなくちゃいけないことって、もう、ひとつしか思い浮かばない。 「ごめんね? 泣いたりして」 「いや、」 また、雪が舞い出した。 やっぱり鈴といると、雪になる。 「…たくさん、もらっ、た?」 「何?」 「その…、今日、学校で」 「あー…、あぁ、」 正直、うんざりする一日だった。 靴箱を開けるなり、赤やピンクの包みがいくつも詰め込まれていたし、机の中も同じような状態。 休み時間には、教室に押しかけてくるのもいたし、それは放課後まで続いた。 それらをひとつ残らず宏人に押し付け、俺は逃げるようにして、鈴との待ち合わせの公園に辿り着いた。 不特定多数に興味はない。 「さっきも言ったけど、俺が欲しかったのは、ひとつだけなんだってば」 「甘いもの、好きなのに?」 「…もっと好きなもん、あるんだよ」 雪が、鈴の髪を飾る。 頬を撫でる手が震えるのは、寒さのせいだけじゃない。 こうまでなって、純金並の確証があるのに、不純物程の不安が頭をもたげる。 俺ってこんなビビリだったっけ…。 「甘いものより何より、俺、鈴が好きなんだ」 顔を見られないように、抱き締めて、耳元でそっと囁く。 まだ伝えていなかった、大事な大事な言葉を――。 [*]prev | next[#] bookmark |