《桜、咲く》
#01_女を信用しない男:02




 ――さっみぃ…。

 寒さで目を覚ますと、上から白いものがチラチラと落ちてくるのが見えた。

 あぁ、雪か。どうりで。

 公園の片隅に転がされていた自分の身体を起こして、手足を動かしてみる。


「…ってぇ」


 打撲や擦傷はあっても、どこも折れてはいないようだ。が。

 口の中に、唾液ではない液体が溜まっていて、それを勢いよく吐き出せば、積もりかけていた雪が赤く染まった。

 最初に浴びた鉄パイプの一撃が、全身にダメージを残している。


「ちっくしょ…、誰だよあいつら」


 立ち上がる足が頼りない。

 よろめく身体を引きずって、人目につかないよう、細い道を選んで歩く。


 あの制服確か、南高、だっけか。

 南高に知り合いなんかいねぇよな。

 いや、俺が知らないだけで、俺に恨みがある奴なんて、腐る程いるか。

 さっきの奴らも、おおかた俺に言い寄ってきた女の元彼、とか、きっとそんな類いだろ。

 俺から手ぇ出した訳じゃねーのによ。

 女のほうが寄ってくんだからしょーがねーじゃん。

 女に捨てられたくらいで多勢に無勢って、どんだけ憐れなんだよ。

 そんなチキンだから捨てられんだ。


 名も知らぬ相手に毒づき、多少イライラを紛らわしてみるものの。

 微妙に身に覚えのあるようなないような、襲撃の原因を探りつつ、ヨロヨロと歩みを進めるが、身体は思ったより限界らしい。


 ――ズルッ

 雪に足を取られ、俺は見事にゴミ集積所に倒れ込んだ。


「あー…、ちくしょー」


 起き上がる気力も尽きて、ゴミ袋に囲まれたまま天を仰ぎ見て、ため息。

 じっとしていると、俺の上に雪が降り積もる。




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