《桜、咲く》
#02_男を怖がる女:02




 きっと、和紀くんに対しては“千裕くんの友だち”っていう強力なフィルターがかかってるんだ。

 じゃなかったら、いくらなんでも、ねぇ。和紀くんだって、千裕くんに気を遣ってあたしに接してたに違いない。

 それに、あたしが男の子と話すことができたからといって、それがイコール恋愛対象、ではないと思う。

 他人事みたいに、“ないと思う”って考えてしまうのは、あたしが男の子を好きになったことがないからだ。

 誰かを好きになると、自分がどうなるのかが判らないから、客観的にならざるを得ない。

 彼氏とデート、なんていうのに憧れたりしないでもないけれど、今のあたしには到底無理な話。


(あ、デート…)


 迎えに行く、なんて言ってたけど、本気だったのかな。まさかね。


「よりによって森川くんだなんて」

「そんな悪い人じゃないと思うよ。千裕くんの友だちだし」

「まぁねぇ、噂は噂だし。でも鈴は心配」


 和紀くんって、ホントにそんな人なんだろうか。

 自分のことすらよく判らないのに、和紀くんが何を考えてるかなんて、ますます判る訳がない。


 今朝の和紀くんの態度から、千裕くんにあたしの話を聞いたんだろうな、とは思う。

 千裕くんが『送って行け』なんて言うから、律儀に電車の中では混雑からガードしてくれてたし。

 それでいて、デートしよう、とか、どういうつもりなんだろう。

 あたしが男の人苦手、って、判っててどうして。

 からかって遊ぶのなら、なにもあたしじゃなくてもよさそうなのに。

 そんなことばかり考えていたので、今日の授業はちっとも頭に入らなかった。








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