《桜、咲く》 #01_女を信用しない男:11 …そうだよな。 つか、そりゃそうだ。 千裕さんが一緒にいるならまだしも、昨日会ったばかりの俺とふたりきり、なんて、彼女にとっては拷問だろうよ。 「早く帰って、寝て? まだ、熱あるんでしょう」 …は? ちょ、待て。 一瞬、言われてる意味が判らなくて、返す言葉に詰まる。 「それ、さ。早くひとりになりたい、ってこと? それとももしかして、心配…、してくれてんの?」 ハッ、と、我に還った顔になり、真っ赤になって俯く鈴。 「あ、えっ…、と」 やっべ。 何でか俺まで恥ずかしくなってくんですけど。 手の平で半分顔を隠して、鈴に見えないように逸らす。 「あの、ほら、それに、け、怪我も、してるでしょう?」 それはどう見ても、恥じらう女の子、の顔だった。 頬染めた顔に下から遠慮がちに覗き込まれる、なんて、マンガや映画の中だけだと思っていた俺にとって、それはとても新鮮で、くすぐったくて。 「ああ、んーと、俺、家帰らないでこのまま学校行くし。四葉だったら隣の駅だから、別に送るくらいかまわないけど」 何言ってんだ、俺。 こんな必死なの、どうかしてる。 「知らないオヤジに囲まれて電車乗るよりか、まだ俺のほうがマシかもよ」 何で俺、緊張してんの? 「それに、千裕さんの命令に背いたら、後がおっかねぇし」 しかも、言い訳がましいし。 「…千裕くんて、そんなに怖いの?」 「俺にとっては鬼より怖ぇよ。頭上がんないんだよ、あの人には」 クスッ、と、はにかむように笑う鈴が、可愛い、なんて。 そんな感情が、俺の中にあることに驚いた。 変だろ、俺。 [*]prev | next[#] bookmark |