《桜、咲く》
#01_女を信用しない男:10




 結局俺は熱が下がらなくて、そのまま千裕さんの――というか鈴の――家に、泊まらせてもらった。

 男嫌いな鈴がいるし、親御さんはいい顔をしないんじゃないかと思っていたが、それは杞憂に終わった。

 翌朝、かなり高熱だったにも関わらず、微熱よりちょいあるかも程度まで熱は下がり、我ながら驚異の回復。

 鈴の家のおばさんが「いつでも遊びに来てね」と、帰り際に言ってくれたのは、社交辞令と取るべきなんだろうか。

 朝飯の、スクランブルエッグが、すげぇウマかった。



「お前、家に帰るだけなら、鈴を学校まで送ってやってよ」


 病み上がりと言える程回復していないのに何だと思っているのか、千裕さんはそう言って、俺と鈴を送り出した。





「あー…、学校、どこ?」

「よ、四葉女子」


 ここらじゃ誰でも知ってる、お嬢様学校。

 制服を見て判ったけれど、沈黙が嫌で、敢えて訊いてみた。


 こういうのは初めてだ。

 一方的に女が寄って来て、勝手に何か話してたり、無理矢理食事に連れて行かれたり、ベッドに押し込まれたり。

 そんなのしか、俺は知らないから。


 何か話したほうがいいんだろうか。

 しかし相手は男嫌いだ。

 ヘタに話しかけたりしないほうが――。


「あ、の…」

「ぅわっ、え、はい」


 び、びっくりした。

 まさか、向こうから声をかけてくるなんて、予想外だ。

 思わず声が裏返った。

 しかも俺、はい、だって。


「あたし、ひとりで学校行けるから、」




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