《桜、咲く》 #01_女を信用しない男:01 「森川和紀って、お前か」 知らない声に呼び止められ、振り返った瞬間、顔面目掛けて拳が飛んでくる確率はどのくらいなんだろう。 反射的に、左手で飛んできたそれを受け止める。 「…誰、あんたら」 そう言い終わらないうちに、背中に鈍痛が走り、脳が揺れるような衝撃と同時に、膝をついた。 「――ゲェッ、ホッ!!」 「ざまぁねーな、森川!」 四人、いや、後ろにもいるから五人、か? 制服には見覚えあるけど、こいつらの顔は見たことがない。 つーか、鉄パイプはねぇと思うぜ? 昭和の暴走族かっつんだよ。 ケンカなら飽きる程してきたし、こんな風に訳もなく殴り掛かられることもしょっちゅうある。 だけど、不意打ちに複数、はないな。 さすがに俺も防戦するだけで精一杯で、膝をついたのが災いして、面白いように次々とボコられた。 「どうしたぁ? 森川。これで終わりだと思うなよ?」 ボロ雑巾のように崩れ落ちた俺は、前髪をわし掴みにされた挙げ句、顔を上げさせられる。 う、やべ、鼻血飲んだかも。 呼吸が…――。 「…う……」 「おいおいおい、せっかくの男前が台なしだな。ひゃあははははは!」 至近距離で見てもやっぱり見覚えのないそいつが、笑いながら目の前で何か言ってるのを、遠くなる意識の片隅で聞いていた。 [*]prev | next[#] bookmark |