《蛍の群れ》
#03_いろんなこと:15



 緩く閉じたあたしの膝に手をかけた望月さんは、その膝を自分の腿で支えて持ち上げ、耳の脇に手をついた。

 所在なげにシーツを握り締めたり、枕に爪を立てたりしていたあたしの手は、望月さんの指と絡まり合う。


「…痛い、と思うよ」

「うん」

「我慢しないで。辛くなったらすぐ言って」

「ん、」

「一度でできなくたっていいんだから。徐々に慣れていこう、ね?」

「…うん」


 絡めた指に、力がこもる。

 怖くはないけど、緊張する。


「――未来、」


 飛び切り甘い声が、脳髄に響く。


「…好きだよ」


 熱い塊が茂みで揺れる。

 優しい視線に包まれて、望月さんの匂いに囲まれて、あたしはそれだけでも充分幸福で。

 だから、


「あた、し…、んン――ッ!!」


 予想外の衝撃に、身動きひとつできなくなった。



 痛いなんてもんじゃない。

 麻酔なしで手術するのって、きっとこんな感じに違いない。

 何で?

 何でみんな、こんなことしたがるの?

 気持ちいいなんて絶対ウソ。

 息もできない。

 死んじゃう。

 このままじゃ、死んじゃう。



「…ッ、未来、息、して」


 軽くパニックになりかけたあたしに、望月さんの声が届く。


「あ…っ、あ、はッ」


 まさか一気に来るなんて思ってなかったあたしは、重く熱い楔を打ち込まれて、呼吸の仕方すら忘れる。


「――…ごめん、そんなに痛がるなんて。今日は、止めとこっか」




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