《蛍の群れ》
#03_いろんなこと:14



「…未来ちゃん、平気?」

「あ…っ、は、…ん、へ…き」


 痛みはないのに、身体の中心がジンジンと波打つ。

 違和感…?

 それすらよく判らない。

 判っているのは、望月さんが何かした、ということ。

 望月さんのしたことだから大丈夫、ってこと。


「動かして、みるね」


 あたしの額を撫でて、生え際を唇で辿りながらも、ずっとあたしを見ていてくれる。

 動かす、と言った指を、ゆっくり引き抜くと、途中で吸盤がガラスから剥がれるような音がした。


「や、…ぅあ、」


 こんな感触、体験したことない。

 痛み以外の感覚だけが残る麻酔を打たれたような、内臓がゆるゆると引っ張り出されるみたいな感じ。

 だけどそれは、決して不快ではなくて、


「あぁ…っ、ん、ッふ」


 吐息だけが、甘く漏れる。

 時折、水の撥ねるような音がすると、望月さんが嬉しそうにするから、恥ずかしいけど口には出さなかった。


 あたしの身体が、こんな風になっちゃうなんて。

 こんな風にしてるのが、望月さんだなんて。


「…そろそろ“俺”が入ってもいい?」


 あたしの中に入る、っていうことは、あたしの心を委ねる、ってことで。

 さっきまでみたいに、むやみに快楽を与えられるのとは、違う。


「も、ち月、さ――」


 悲しい訳でもない。

 痛い訳でもない。

 ただ、目の前に望月さんがいることが、――あたしを抱き締めてくれていることが、ひどく嬉しくて、目尻が溢れる。


 コクリと頷けば、またキスの雨が降ってきた。




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