《蛍の群れ》 #03_いろんなこと:09 「無理だと思ったら、俺に気を遣わないで、ちゃんと言って」 玄関からまっすぐ寝室に連れてこられ、あたしは今、望月さんのベッドの上。 「ん、…」 ホントは。 ちょっと待って、って。 十分、ううん、五分でいいから待ってほしくて。 ドキドキし過ぎて、何が何だか判らないから、気持ちを落ち着ける時間がほしくて。 でも、教えて、って言ったのはあたし。 待ってもらったりしたら、逃げ出したくなっちゃうかもしれない。 だったら、何だか判らないうちに、望月さんに包まれてしまいたい。 逃げ出さないように、しっかり捕まえてもらって、望月さんをもっと教えてもらいたい。 怖くない訳じゃない。 望月さんも、あたしが怖がってること、多分気付いてる。 でもね。 望月さんだもの。 何があっても、きっと平気。 あたしの頬を支えるように、望月さんの手が伸びてくる。 震えてるかもしれないから、気付かれないように、その腕にそっと手をかける。 「…大切にするよ、ずっと」 そう言ってくれた望月さんの唇が、あらためてあたしの唇を捕まえる。 しっとりと熱い唇が、あたしを飲み込むように蠢いて。 頬にある手が、髪の中に滑り込むのと同時に、あたしの口内に、柔らかいものがゆっくりと忍び込んできた。 「――…っ、ん、」 鼻から抜けるあたしの声が、あたしの声じゃないみたいで、恥ずかしいのを通り越して、消えたくなる。 こんなふうに、なるんだ。 初めてのキスは、触れるだけでこんなに密着したりしなかった。 あたしの口の中に、あたしのじゃない舌が入ってるなんて、普通じゃ考えられない。 唇が離れても、おでこがくっついてる。 ドキドキするどころか、身体が熱くて溶けてなくなりそう。 「あ、や、待っ…――」 「――やだ?」 [*]prev | next[#] book_top |