《蛍の群れ》 #01_一目惚れ:17 「ねぇ、あーちゃん、あーちゃん! あーちゃん!!」 ノックもせずにあーちゃんの部屋のドアを開けると、「騒がしいな」と、ペディキュアに夢中なあーちゃんの返事が返ってきた。 「ど、どうしよう、あたし、」 こっちを見向きもしないで、あーちゃんはひたすら足の爪をボルドー色に染めていく。 「あのね、その、…」 「なあに?」 「あの、あたしね、望月さんとあーちゃんが話してるのを見てるのだけじゃなくて、」 くるくるとあーちゃんの指が回り、エナメルの瓶が閉じられた。 ほんのり残る、エナメルのにおい。 「望月さんがあーちゃんを“明日香”って呼ぶのも、やだったの」 あーちゃんの視線が、エナメルの瓶からあたしに移る。 「…それから?」 「ずっと、ズキズキモヤモヤしてた」 「うん」 「さっき、望月さんからメールがきてて、…嬉しい、って思って」 「うん」 「なのに、何て返事を返せばいいか、判んない」 「…未来、」 座って、って、ベッドに腰掛けてる隣をあーちゃんがポンポンと叩く。 塗りたてのペディキュアに触らないように、そっと座った。 「何て返事したいの?」 「…判んないの。送ってくれてありがとう、とかでいいの?」 友だち、って訳でもないし。 こんなときはどうしたらいいのか、検討もつかない。 「まぁ、いっか」 それでいいよ、と、あーちゃんがにこにこしている。 「そんなんでいいの?」 「何だっていいのよ。未来の気持ちが大事なんだから」 「気持ち…」 「未来からのメールだ、ってだけで、悶え死にするわよ」 [*]prev | next[#] book_top |