《蛍の群れ》 #01_一目惚れ:16 ========== from:望月臣人 楽しかったよ、今日。 ありがとう。 でも、騙すようなことして、 ごめん。 俺が言ったこと、 ウソじゃないから、 ゆっくり考えてくれると 嬉しいな。 また連絡する。 今度は明日香抜きで、 未来ちゃんとふたりでね。 おやすみ。 ========== …すっごい、シンプル。 絵文字も顔文字もない、素っ気ないくらいの文面だけど、それがかえって、望月さんの爽やかな笑顔を思い出させた。 今日一日ずっと、ズキズキしたりチクチクしたりしてたところが、じんわりと温かくなっていく。 おやすみ、なんて締め括られたら、返信してもいいのかどうか、迷ってしまう。 文面が浮かばなくて、お風呂に入って気を紛らわそうとしたけど、無駄な足掻きだった。 浮かばないものは、何をどうひっくり返したって、浮かんでこない。 ベッドに入って望月さんのメールを何度も読み返すうちに、またモヤモヤしてきてしまう。 「あーもー…」 メール画面のまま携帯から手を離して、枕に突っ伏した。 何が何だか、さっぱり判らないや。 本屋さんで文庫本を買って、望月さんに声をかけられて。 望月さんが言ってた“タイミング”っていうのは、そのときのことなんだろう。 小銭とカバンの中身をぶちまけて。 それを一緒に拾ってくれた望月さんがあたしの名前を見て、あーちゃんを思い出して、あたしはあーちゃんの妹で。 望月さんがあーちゃんに何てメールをしたのかは知らないけど、そのやり取りをする間に、密かな協定が結ばれたに違いない。 ――結構前から未来ちゃんを見てた ――あーちゃんと話してる望月さんを見てるのは、やだった ――ヤ、キ、モ、チ 「………えぇぇっ!?」 ガバッ、と、音がする程、跳ね起きた。 ――一目惚れ、って、信用できる? [*]prev | next[#] book_top |