《蛍の群れ》
#01_一目惚れ:15



 そこまで言うと、あーちゃんが突然笑い出した。

 それはもう、抱腹絶倒、という言葉のお手本のように、涙を浮かべて、床に転げ回って。


「いやー、臣人も大変だ」


 助けて、なんて言いながら、何がおもしろいのか知らないけれど、あーちゃんの笑いはなかなか止まらない。


「…全然判んない」

「未来は手強いよ、って、アドバイスしといたんだけど、あたしの予想以上だったわ」

「手強い、って何よ」

「いいの、いいの。未来はそのまんまでいなさいな」


 あーちゃんの手が、あたしをイイコイイコする。

 望月さんの手とは違う、細い指。


「携帯くらいは、聞かれたんでしょう?」

「あ、うん、交換した」

「まぁ、初回だし。未来にしては上出来かな」


 まだ微かに笑ったまま、あーちゃんは笑い声を堪えながら、テーブルに手を付いて腰をあげる。


「あとで、メールのひとつでも送ってやんなよ。今日はありがとう、って」


 先に寝るね、って、あーちゃんはあたしに手を振ってリビングを出て行く。


 ありがとう、って。

 あたし、何も知らずに連れて行かれたのに。


 …でも。

 大人の世界では、“デート”というものをしたあとは、そういう礼儀作法があるのかもしれない。

 家まで送ってもらったしね。

 何だか釈然しないけど、あーちゃんの言うとおり、とりあえず望月さんにお礼のメールを送ろうと、カバンから携帯を取り出した。

 あたしの白い携帯は、まるで待ち構えていたかのように、チカチカと、メールの受信を知らせるライトが点滅していた。




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