《蛍の群れ》 #01_一目惚れ:13 どうやって帰ってきたのか、よく覚えていない。 気が付けば車の中で、望月さんが家まで送ってくれている途中で。 …あたしは、終始無言のままでいた。 感じ悪かったかもしれないけど。 ――彼女になってくれない? そんなこと言われるなんて、思ってもみなかったんだもの。 家には明かりが点いていて、お母さんが帰ってるんだとばかり思っていたのに、リビングにいたのは、あーちゃんだった。 「おかえりー。なんだ、意外と早く帰ってきたね」 ソファの上から首だけぐるんと振り返って、あーちゃんがニヤニヤしている。 「あーちゃん! ちょっとどういうこと!?」 「ごめんごめん」 全然悪いと思ってないのが見え見え。 「まぁ、座んなよ」 麦茶でいい? なんて、暢気に言いながら、ソファから立ち上がった。 全部、全部。 あーちゃんは知ってたんだ。 今、家にいるってことは、仕事なのも、ウソだし。 望月さんが言ったとおり、あーちゃんは望月さんのお願いを聞いた、ってことなんだ。 「どう?」 「何が」 コトン、と涼しい音がして、テーブルに麦茶のグラスが置かれた。 「臣人」 「…っ、だから、何が」 「初めて付き合うにはいい相手だよー? あれで大学の頃は結構モテたんだから」 「あーちゃん!」 いくら怒ってみせても、あーちゃんには効き目がない。 「何よー。臣人じゃ不満?」 「不満とか、満足とかじゃなくて、」 「なんだぁ。臣人も押しが弱いなぁ」 [*]prev | next[#] book_top |