《蛍の群れ》
#01_一目惚れ:12



「だって、判んない。…種明かしなんですよね?」

「まぁ、そう言ったのは俺だけどさ、…――あぁ、ホントにもう!」


 最後のほうを小さく叫んだ望月さんの声は、少しだけ、くぐもって聞こえた。


「も、望月、さん?」


 いつの間にか、繋いだ手は離されて。

 そのかわり、あたしの視界は真っ暗。

 耳元のあたりに、望月さんの二の腕があって。


 …抱き締め、られてる。


「明日香の言うとおりにしてるんじゃなくて、明日香が俺の言うこと聞いてくれたんだよ」

「あ、あの、望づ…」


 ドキドキが、暴れ出す。

 こんなこと初めてされた。

 恥ずかしいのに、身動きできない。

 腕を、振りほどけない。


「飯食いに行って、途中からふたりにさせてくれ、って頼んだの」

「…」

「だから、その…」


 頭の上で、望月さんが唸ってる。

 あたしの細胞は、また固まってしまったみたいで、心臓だけが目一杯フル稼動している。


「あー…、声をかけたいと思ってたのも、明日香が未来ちゃんを可愛がるのが判るのも、未来ちゃんのこと知りたいと思うのも、ふたりっきりになりたかったのも、理由はひとつだよ」


 ゆっくり、ゆっくり、言葉を選びながら、望月さんがそれを紡ぐ。


「え、っと…」


 苦しい。

 肋骨の真ん中あたりが、キシキシする。

 呼吸も満足にできないのに、望月さんの腕があたしを締め付ける。


「ね、未来ちゃん」

「…はい」

「――…一目惚れ、って、信用できる?」








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