《蛍の群れ》
#01_一目惚れ:09



 ひょっとして、望月さんは何かあーちゃんに、弱みを握られたりしてるのかもしれない。

 だからあーちゃんの言うことは、望月さんには絶対で、断ることもできず。


 …なんだ、それは、つまり。


 自分で勝手に導き出した結論に、あたしは思いの外、がっかりしていた。

 がっかりしている自分に気が付いて、驚きもした。

 何なんだろう、さっきから。

 ズキズキしたり、モヤモヤしたり。


「また変なこと考えてる?」


 赤信号に照らされたフロントガラス。

 あれ、高速降りたんだ…。


「変、って、」

「今度は何?」

「…ナイショです」


 望月さんだって、教えてくれないのに、あたしだけ答えるなんて、ズルい。


「ちぇー。知りたいなぁ」


 チカチカとウィンカーを鳴らして、車は左に曲がる。

 左折しながら徐行して、揺れることもなく、すっ、と、静かに車が停まった。


「未来ちゃんのことは、何でも知りたいのに」


 びっくりを通り越して、全身の細胞が固まったみたいになった。

 みたい、じゃなく、多少はホントに固まったかもしれない。


「――え!? なん…」


 その言葉を、どう受け取ったらいいのか判らない。

 また蒸し返せなくなる空気になる前に、確認してみたかったのに、望月さんはさせてくれない。


「暗いから、降りるとき、足元に気をつけて」


 ほら、また。

 何か訊こうとすると、望月さんはするする逃げていく。


 暗闇の中、運転席のドアが閉まる音には、ほんの少し、ディレイがかかっていた。




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