《Hard Candy》
#09_命懸け:01



「俺も買い替えようかなー」

「…持ってるじゃない」

「違う色も欲しくなってきた」


 バイク雑誌を広げて、ランチを囲む。

 ヘルメットだけ、の広告ページがあることに、あたしは驚いていた。

 写真にすると小さなビー玉みたいで、カラフルなそれらが、見開きの紙面を埋め尽くす。


「そういえば凪のは黒ばっかりだね」

「黒はさ、暑い日とか脱ぐのやんなるんだよな。触るとすげぇ熱持ってんの」


 こうやって過ごしていると、昨日凪が泣いたなんて、嘘みたいだ。

 泣いた、とはいっても、一筋涙を流したきりで、それ以上は見ていない。


 どうしたの、とか。

 訊いてみたいけれど、訊けない。


 凪はずっと、何かに悩んでいるような、惑わされているような、情緒不安定な感じが続いていた。

 言いたくない、のか、言えない、のかは判らない。

 話してほしい、とは思うけれど、事情があるのなら無理強いはできないから。


「そもそも、俺のバイクが黒だからなぁ」


 うーん、と、烏龍茶の紙パックに刺したストローを噛みながら、雑誌と睨めっこしている。


「あ、これ可愛い」


 白地に水色のラインが入ったものを指差すと、凪はストローを口から離した。


「うん、澪っぽい」

「水色と、シルバーと、ピンクかぁ」

「澪はピンク、って感じじゃないな」

「そぉ?」


 別にピンクは好きじゃないけど、いかにも“オンナノコ”って感じだから、イメージじゃない、と思われるのは、少し寂しい。


「水色とか緑とか、爽やかなやつ」

「えー。あたしだって女の子なのにぃ」


 むっ、と頬を膨らませると、そこを凪の指に突かれる。




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