《Hard Candy》
#08_胸騒ぎ:09



 柾木はなりふり構わず、澪のために、行動を起こした。

 俺はただ、何もできずに指を咥えていた。


 ちくしょう。


 熱を計るような手付きで澪の額に手を宛てて、顔を上げさせる。

 閉じていたらしい瞼が静かに持ち上がり、網膜に俺を映す。


 俺、今、どんな顔してる?


「澪…、」

「うん?」


 サイドの髪の隙間から、小さなピアスが見え隠れする。


 俺が空けた、俺の印。

 俺が最初に澪に触れた場所。

 俺を澪に刻み込んだ場所。

 永遠に消えない、俺の印。



 ふいに、ひやり、と、頬を冷たい空気が流れた。


「…――」

「あたしにも、心配くらいさせて」


 冷たい空気が流れた跡を、澪の指が撫でている。


「男の子だって、泣いたっていいんだよ?」


 冷たいと感じたのは、頬の涙の筋を、澪の指がなぞったからだ。

 なんだ、俺、カッコ悪ぃ。


「澪、俺――」

「無理に話さなくていいよ。凪が話したくなったら、落ち着いたら聞かせて?」



 一瞬。

 ほんの一瞬だけ。

 唇に熱いものを感じた。


「…澪?」

「恥ずかし…から、見ないで」


 力いっぱいしがみついて、胸に顔を埋める。


 あぁ、もう。

 何してくれちゃうんだよ。


「俺、さ」


 つむじにキスを乗せて、軽く息をつく。

 少し赤い澪の顔が、まっすぐ俺に向けられた。

 こんなに誰かを愛しいと思うことがあるなんて。


「…もう、澪が欲しくてどうにもならないよ」



 初めて澪がくれたキスは、微かに涙の味がした。








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