《Hard Candy》
#08_胸騒ぎ:01



 あれからまだ、ときどきメールが届く。

 もう画像は添付されることはないけど、明らかに俺を挑発する文面。

 来るなら来い、とでも言いたげな、変わらないアドレス。


 送り主は果たして本当に、柾木、なのだろうか。

 何故か最近、そう思うようになった。





「――んんっ」


 最近の俺はおかしい。


「凪、くる…し…っ」


 気持ちを一方的にぶつけるようなキスしかできない。

 もっと、優しく、してやりたいのに。


「ごめ…」


 ううん、と、笑みを浮かべる澪の額に口付けて、腕の中にきつく閉じ込める。

 このまま、澪を折ってしまいそうだ。


「凪?」

「ん」

「…何を悩んでるの?」


 澪はそんな俺の変化に気付いていて。

 ときどきこうやって、心配してくれる。

 いや、心配させてしまっている、が正しいかもしれない。


「…こないだ、柾木に会った」

「…」

「バイトの帰り、偶然」


 あのときの柾木の様子を思い返してみると、添付画像を送り付けたのが柾木だとは、どうしても考えにくい。

 あいつはあいつで、澪を大事にしていたはずだ。

 それだけは、判る。

 なのに、どうして。


「…何か言ってた?」


 震える声が、胸に染みる。


「澪を返せ、ってさ」


 首筋に唇を這わせると、澪が微かに身をよじる。

 そんな仕種に、男の欲望は、あっさりと顔を覗かせる。


「今さら、澪を誰かにやれるかよ」


 今すぐにでも押し倒してしまいたい。

 だけどまだ。

 まだダメなんだ。


 ――澪が俺に抱かれてもいいと思ったら教えて


 そう言ったのは、俺だから。

 澪の気持ちが、ちゃんと着いてくるまで。

 柾木との決着が着くまで。




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