《Hard Candy》 #07_コトバ:09 「…ううん、あたしこそ、ごめんなさい」 あんなに大事にしてくれているのに。 気持ちは充分過ぎるくらい、伝わっているのに。 「ホント、ごめん。不安にさせたりするつもりなんか、なかったんだ」 「うん…」 いいの。 こうやって、追いかけて来てくれた。 あたしのワガママなのに。 「でも、さ」 「うん?」 「よくよく考えたら、俺だって聞いてねぇんだよなぁ。澪の気持ち」 「え? …えぇ!?」 ウソ。 あたし、言ってない…? 「ひでぇな。俺は拗ねられ損かよ」 「や、だ、違…」 「あーあ。やっぱ俺の一方通行だったのかぁ。そうだよな、俺がグイグイ攻めたから、澪は断り切れなくて俺の傍にいるんだもんな」 「ち、がう…!」 思わず腕にしがみつくと、凪がニヤリと笑った。 「ん? 何が違うの?」 「えっ、と…、あの」 「言って? 澪はすぐ自分の裡に溜めるからな。言いたいことは言ってくれないと、俺、判んねぇよ」 「あ…、う、っと…」 ズルい。 面白がってる。 だって、目が笑ってる。 久しぶりに見る、凪のそういう笑顔。 「…す、…」 「す?」 「す…」 うわ、あたし、すごいドクドクしてる。 “す”と“き”だけを口に出すのが、こんなに恥ずかしいなんて。 こんなこと、凪に言ってもらおうとしてたんだ。 「クス…。ごめん、意地悪かった」 嬉しそうに言った唇は、半分言いかけたあたしの唇を塞ぐ。 「――んッ」 直接伝わる、凪の気持ち。 温かくて、優しくて、あたしをまるごと包み込んでくれる。 「好きだよ、澪」 [*]prev | next[#] bookmark |