《Hard Candy》 #06_メール:08 「――凪?」 立ち上がった勢いで、抱き締める。 廊下からは見えない、俺の席で。 「どうしたの?」 「…待ちくたびれて澪切れ」 つむじにそっと、キスを落とす。 何も言わずに、澪が背中に腕を廻す。 お前、ホントは柾木に何されたんだよ。 つまんねぇ、って言われただけじゃねぇのかよ。 柾木が会いに来てることを言えなかったのは、あの画像のせいか? あれがあるから、あることを知っているから、自分でどうにかしたかったのか? 込み上げる衝動が何なのか、自覚はしている。 柾木のカタつけてからだ、って、そう決めたじゃねぇか。 けど――。 「澪…」 汚されたままだなんて、我慢ならない。 傷付けたままだなんて、許せる訳がない。 それでもこうして笑っている澪の奥底に澱む記憶を、消してやりたい。 でもそれは、さらに澪を傷付けることにしかならなくて。 「なぁに?」 肩に手を置いて、身体を屈める。 白い喉に、噛み付くように唇を宛がう。 「――んっ、凪、ダ…メ」 甘い吐息が、苦しい。 微かに香るグリーンティーに逆上せあがる。 目を閉じても、浮かび上がるのはあの画像。 「な…ぎ、ちょっ…」 待って、と言われる前に、手の平で口を塞いで。 「んッ――んん!」 澪に空けたピアスの下。 赤い束縛の印を刻み付けた。 柾木に躍らされている、と、判っていながら。 [*]prev | next[#] bookmark |