《Hard Candy》 #06_メール:06 件名にわざわざ名前を入れてきた。 背筋を、ヒヤリとしたものが流れる。 見るな。 見ちゃダメだ。 心の奥から、そんな声が聞こえてきた。 ――澪のこと、どこまで知ってんの? いや、澪とこれは関係ないだろ。 柾木のハッタリなんか、今思い出してどうすんだよ。 イタズラだって。 見なくていいって。 判ってんのに。 メニュー画面を閉じてしまった。 1通目を選択して、画像を受信する。 まだ間に合う。 受信だけなら引き返せる。 迷ってないで、とっとと削除しちまえばいい。 だけど俺の意思とは裏腹に、親指は1通目のメールを開いてしまった。 …は? な、んだ、これ…。 真っ白になる、って、こういうことかもしんない。 柾木、だ。 これは柾木からのメールだ。そう、直感する。 どこで俺のメールアドレスを知ったかなんて、この際どうでもいい。 ――知らねぇほうが幸福なことも、あるよなぁ? 授業の声なんて、もう耳に入らない。 俺の意識は、携帯に展開された画像に一点集中していた。 ドクドクと脈打つ鼓動のせいで、携帯を持つ手が揺れる。 見たくないのに、携帯を閉じられない。 うっかりすると、叫び出してしまいそうなくらい、頭に血が上っている。 「――を、国領、読んで」 はい、と、何も知らない澪の涼しい声がした。 教科書を読む澪の声が、画像に重なる。 机の下で添付画像を凝視したまま、俺は澪が教科書を読み上げる声を聞いていた。 [*]prev | next[#] bookmark |